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“心の忘れ物”に、再び巡り会うための家具

カテゴリ : モノづくり 2016.09.30

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http://yokohama.condehouse.co.jp

INTRO
創業から間もなく48年を迎える、旭川発祥の家具ブランド「CONDE HOUSE(カンディハウス)」。モダンであり、凛とした空気を纏っているデザインは、独特な静けさや私たち日本人のDNAを擽るものがある。このブランドの背景とデザインの考え方を探るために横浜みなとみらいにあるCONDE HOUSEのショップで、スタッフの南さんと若杉さんにお話しをうかがってきました。

インタビュー&テキスト
白鳥 ゆり子(技拓)
助手H

写真
蒲田 星人(HOT SYSTEMS)

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南さん            若杉さん

助手H
CONDE HOUSEと技拓の関係は、どういったところから始まってるんですか?
南さん
ある設計士さんに、「CONDE HOUSEの家具と近い匂いがする」ということで、技拓を紹介していただいたのがきっかけだったと思います。それで、鎌倉山のオフィスにおじゃまさせていただきました。
白鳥
それからしばらくして、打ち合わせをするテーブルの椅子を購入させていただ いたんですよね。技拓ではお客様との打ち合わせを、だいたい3、4時間するんですが、お客様が「疲れない」ということで、いつもその椅子を褒めてくださいます。その流れでCONDE HOUSEの椅子を購入してくださる技拓のお客様もいます。
あと技拓のオーナーで、昔、長原さん(CONDE HOUSE創業者)と一緒に仕事をしていたことがある方もいたりして(笑)。そのオーナーの持っているソファがCONDE HOUSE製のもので、修繕していただいたんですよね。

     

若杉さん
はい。その時にそのオーナー様から聞いた内容では、たしか、長原が創業前の、すごい昔に一緒にお仕事をされてたというような・・・長原はドイツで家具の勉強をしてるんですが、渡独前は旭川の家具製造会社で働いていて。たしかその時に一緒にお仕事をされてたという話でした。
白鳥
技拓のことを好んでくれる方は、たぶんCONDE HOUSEを好む方と似ている気がします。旭川で工場も見学させていただきましたが、モノづくりに対する考え方なども、技拓は近い気がします。
助手H
どのあたりが近い気がするんですか? 

          

白鳥
やっぱり、使い捨てではなく、長く使える部分やデザイン性かな。
若杉さん
素材に対する価値観やシンプルさが近いと感じます。
南さん
デザイン性が高くて、美しく、良いものに触れることが人を幸せにすると思うのですが、そこが両社の似てる部分かもしれません。
白鳥
時代の変化や流行にそれほど左右されないですよね。CONDE HOUSEはデザイナ―によっては、個性が異なるというのはあるかもしれないけれど、ブランド全体では、方向性がブレたりはしませんよね?
南さん
そうですね。基本的には旭川という地域・文化から発生してくるデザインで、長く愛着を持ってお使いいただけるような家具をご提案していくという軸があります。
助手H
旭川という地域から発生してくるデザインとは、どんなものでしょうか?
南さん
創業者の長原が影響を受けた、北欧のデザインというのは、地域の文化・生活・特産品などの歴史から生まれたデザインというものに普遍性があり、さらにそこに美しさが備わるという考え方です。現代でも工芸的に価値の高いものというのは、そういったものであり、家具もかくありきというのが、長原のものづくりの理念でした。その想いを旭川で具体化したかったのでしょう。
旭川は家具づくりにすごく適しているんです。良質な木材に恵まれ、今はもうないのですが、北海道東海大学にデザイン学科があったり。 
椅子の研究家として著名な織田憲嗣氏が1000脚以上の椅子のコレクションを持ち、旭川で貯蔵しているんですが、それを旭川デザインウィークの企画展として毎回公開するので、世界中から集めた美しい本物の椅子を直に見れたり。そういう環境が旭川にあるんです。
地域から発生するデザインを目指しながら、さらに家具デザインの国際コンペが行われる国際家具デザインフェア旭川(IFDA)も開催して、世界のデザインを取り入れる事業なども、長原は実行しました。
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※旭川に貯蔵されている織田憲嗣氏の椅子のコレクション

     

白鳥
旭川で国際家具コンペがあるというのがすごいと思います。
若杉さん
3年に1度の開催ですので、来年で10回目を迎えます。
南さん
世界中から約900点の応募があり、デザインを厳選します。
若杉さん
旭川にはたくさんの家具木工メーカーがあり、コンペで厳選された良いデザインを製品化まで持っていきます。技術的にも新しいことにチャレンジできるデザインも多いです。インタビュー前に助手Hさんが「好きだ」と言っていた「BARCA」(バルカ)も斬新なデザインで新技術が求められました。
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助手Hレコメンドの「バルカ」

助手H
「バルカ」そうだったんですね。
若杉さん
「ゴールドリーフ賞」という最高賞を受賞してます。長原は「一世代が30年」と考えていて、国際家具コンペも10回開催することにまず意味があるとしていました。来年がその30年目の第10回にあたります。
白鳥
来年は、節目の大事な年なんですね。
若杉さん
そうですね。家具の会社も経営的に「一世代が30年」で変わっていくので、「世代を継承する」という意識を喚起するという意味でも、国際家具コンペを「まずは10回開催を」ということを長原は目指していました。
白鳥
そこまで考えてたというのはすごいですね。
ところで、外国人デザイナーから見た日本の家具製造技術というのは、レベル的にどう思われてるんですか?
南さん
旭川を含めレベルは高いと認められてますね。ドイツの家具見本市にCONDE HOUSEも出展していて、現地のデザイナーからもモノの良さについて高い評価を得ています。
白鳥
CONDE HOUSEの工場の技術力が高いと、評価されてるということですか?
南さん
そうですね。無垢材のジョイントや素材の活かし方、突板などもそうですが、「精密で丁寧な作り」という評価をいただいてます。
助手H
「精密で丁寧な作りができる」ということを事前にわかっていると、デザイナーも、デザインの仕方が変わってくるんですかね?
南さん
例えばこういうジョイントがある部分ですけども・・・
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「ジョイントしたものを、内側に削る」というのが、意匠、デザインなんです。
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確かな技術力がないと隙間が出来るなど、こういったディティールの部分をあえてデザインとして見せることができないんです。
助手H
ジョイントの加工は手で行うんですか?
南さん
加工は機械で行いますが、隙間ができないよう、0.0何ミリという刃物の調整を、職人が手作業で行います。椅子は耐久性を保持する為に、構造もすごく重要なので、工場として高い技術を持っていなければ、こういったデザインを実現することは 不可能です。
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長原の本の裏表紙に「三度の飯より、椅子のデザイン」と書いてあったり(笑)  とにかく木に触って、作っていることが好きな職人ばかりだったり、そういう人たちで作ってきた家具ブランドですから、その歴史が、こういったデザインを可能にする技術力を形成できたのだと思います。
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裏表紙に「三度の飯より、椅子のデザイン」と書かれている、長原さんの歴史が綴られた本はこれです。

若杉さん
長原はヨーロッパで家具の勉強をしているときに、ドイツのシステマティックな工場の態勢と、デンマークの手工芸的デザインなどを見ながら、    「脚もの家具」の時代が日本にも来るというのを感じたようです。
そこに向かって、デザインや技術力を高めていったのだと思います。
助手H
長原さんはデザイナーでもあるんですか?
若杉さん
そうですね。
助手H
今、このショップにも、長原さんのデザインした椅子は置いてあるんですか?
若杉さん
はい。ボルスとか・・・
助手H
長原さんは、いつぐらいの時期まで家具のデザインをやってらっしゃったんですか?
若杉さん
いやぁ、もう、ほぼほぼずっとですね(笑)
助手H
CONDE HOUSEで働いている方や、周辺の方、デザイナーなどに、長原さんという方はどんな影響を与えてきたんでしょうかね。
南さん
やっぱり、スピリットや想いというか、信念によって、たくさんの人に影響を  与えてきたと思いますね。箱もの中心の旭川の家具づくりを変えていかないと、 旭川の家具業界が衰退してしまうことが長原にはわかっていました。
だから「ヨーロッパに行って家具の勉強をしなくては」と感じて、時代的にもなかなか普通だと行けないのに、様々な努力をして、まず本場のヨーロッパに行きました。そして、仕事が休みの日には美術館や博物館を観て回って、いいデザインを吸収し、ドイツで家具職人のマイスターの資格もとり、日本に戻ってくるんです。
「旭川から世界に通用する家具を作って、逆に輸出したい」という強い想いがあって、実際にそれを実現させてきたのですが、デザインの枠を超えた、そういった長原のスピリットや信念が、多くのデザイナーや職人、周辺の人々に影響を与えているのを感じます。
白鳥
たしか、旭川というのは、家具の工場同士の技術を利用しあったり、提携したりだとかが多い地域なんですよね?それがすごく珍しいなって思うんですが、街全体で木工というものを底上げしていこうという気持ちがあるからなんでしょうか。  長原さんが旭川を家具の街にしたいという気持ちも、そういうことに影響しているのでしょうか?
南さん
そうだと思いますね。長原は、第一に地域のことを考えてましたから。自社の利益だけではないことを常に考えていました。
助手H
なぜ、そこまで地域のことを考えていたんでしょうかね。。
南さん
ヨーロッパで家具づくりの勉強をしている時に、オランダで「OTALU」と書かれたナラ材を見つけたエピソードが有名なんですが、自分の産まれた地域の木材がヨーロッパ家具の原料になっているのをその時に知ったらしいんです。その家具が何十万という値で売られているのに、自分の産まれた地域が裕福になっていない。その現実に、ものすごい憤りを覚えたということです。
助手H
「怒ってた」ということなんですね。
白鳥
ものすごい衝撃だったんだろうな。
南さん
その出来事がCONDE HOUSEの原点のひとつになっていることは間違いないですね。
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助手H
いつもどのようなプロセスで、家具のデザインが出来て、製作されていくのでしょうか。
若杉さん
まず、長原がデザインしたものは、スケッチで「これを作りたい」と渡されたら工場が一斉に動き出すというパターンだったり(笑) 最近は外部のデザイナーからの提案もあったり、さきほどお話しした国際家具 デザインコンペの「IFDA」からの製品化だったり、CONDE HOUSEから外部のデザイナーへ依頼をして製品化するパターンがあります。
助手H
一番のコアはCONDE HOUSEの工場の技術力があって、それを中心に据えながら、外部のデザイナーがデザインを提案するという感じなのでしょうか。
若杉さん
そうですね。「他の工場だったらこのデザインを実現できないんだけども、CONDE HOUSEの工場だったらできるんじゃないか」とか。外部のデザイナーのなかでも口コミで「だったらCONDE HOUSEに提案してみたら?」という話とかも出るらしいです(笑)。
助手H
職人の技術力以外にも、強みがあるんですか?
若杉さん
「木を見る目を持っている」というのも高く評価されていると思います。
助手H
工場の設備はどうですか?
白鳥
私が工場で見た牛一頭分の大きさをカットできる「革用自動裁断機」というのは、他の工場は持っているんですか?
若杉さん
日本にはほとんどないですね。職人の手仕事以外にも、最新の機械が工場に導入されているので、その両方が強みです。機械の加工プログラムを組むのも大変でその技術者も育成しています。
白鳥
刃物砥ぎ専門の技術者もいるのも珍しいんでしょ?
南さん
そうですね。固い木を削ると刃物が切れなくなってくるので、それを常に砥いで切れ味を良くする人がいるんですよ。
助手H
それを専任でやっている人が工場にいるんですか?
南さん
それを専任で担当しているスタッフがいます。
助手H
どうして、そういう工場になっていったんですかね?
南さん
長原がドイツに行ったときに工業化が進んでいて、最先端の機械を使って作った方が、手で作業をするよりも、均一に綺麗にしっかり仕上がって、さきほどの ジョイント部分のように、デザインにも反映されてくることを知ったので、「工業化は進めるべき」という考えはあったんです。今では普通ですが、「NCルーター」の工場への導入も早かったです。当時は日本語のマニュアルなんてないので、イタリア語を読み解きながら、回しながら機械の使い方を覚えていったり(笑)。CONDE HOUSEの工場はいち早く工業化を取り入れたメーカーなんです。それが現在の工場のスタイルにも関係していると思います。
若杉さん
あと、最先端機械を導入すると、いいデザインの家具を、良質な木でまとめて作れるので、お客様に適正価格で家具を使ってもらえるんです。いい家具でも 高くなってしまっては使ってもらえないですから。
助手H
CONDE HOUSEの、いちばんの強みというのは、どんな部分だと思いますか?
若杉さん
やっぱり「長く使える」デザインとそれを実現する素材と構造だと思います。CONDE HOUSEは 創業してから48年なんですが、自社の工場で家具づくりをしているので、修理の態勢も整えています。なので、買った後の安心感も強みだと思います。
白鳥
値段が高いけれど、流行に捉われすぎて、20年経って使えない家具というのもありますよね。それとは違って、長く使えるデザイン性とクオリティをCONDE HOUSEに感じています。その点がやっぱり技拓の家づくりの考え方に似てるよね、っていう話に、私のなかでなったんです(笑)
南さん
CONDE HOUSEの家具には30年以上のロングセラー製品が結構多いんですよ。 
白鳥
30代で買って、60代の時にも似合う家具というのは、モノを大切に使っていくうえで本当に大事なことだと思います。

<CONDE HOUSE  Long life products>
※( )内は発表年です。

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アルプLD ソファーベッド(1972年)
座面が弓形にカーブしたユニークなソファーベッドはCONDE HOUSEでいちばんの最長寿製品。ソファーで横になる日本人のライフスタイルに合わせて、背クッションは置き式になっています。

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ルントオム チェアー(1973年)
丸い座面が印象的な椅子。発売から40年余りの間に、さらに完成度を高めるべく、リデザインを重ねてきました。

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ゴルファー サロン(N)アームチェアー(1973年)
1973年に発売したロングセラーを、より優れた形になるようにリデザインした、復刻版。ナラ無垢材によるアームのなめらかな感触が贅沢。

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ゴルファー ダイニング アームチェアー(1973年)
後ろ脚から背にかけて、ゴルフクラブを思わせるラインを持つ椅子。丸みのある背に包み込まれるような、やさしい掛け心地に定評があります。

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ラベンダー ダイニング アームチェアー(1979年)
木部の有機的なカーブは、腰掛けた人の姿を美しく見せる効果も。北欧のモダンデザインと日本の木工技術が融合した贅沢な一脚。

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ボルス リビング ソファー(1980年)
往年の代表モデル。奥行きのある座面、幅広いアームがつくる風格が魅力です。

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ボルス ダイニング アームチェアー(1980年)
広い座面と低めのシートハイ、ワイドな背のホールド感がつくり出す掛け心地に定評がある一脚です。

南さん
規格外となる製品もあるなかで、根強い人気があって継続している定番のロングセラー製品です(笑)
白鳥
それだけ完成度が高いということですよね。
南さん
そうですね。飽きの来ないデザイン性とあと「堅牢度」ですね。しっかりとしていて壊れないんです。お客様によく言われるんです「ブン投げても壊れない」って(笑)。10年使うと「ああ、いいなぁ」って本当にわかると思うんです。技拓さんの家も、きっと同じだろうと思います。。
助手H
CONDE HOUSEというブランドの立場から、家具のデザイナーや職人を目指す人に何か伝えられることはありますか?
南さん
本質的なモノづくりを追求するチャレンジをしていくことの大切さを、長原のスピリットからも感じます。「これでいいや」というモノづくりではない領域を探求してもらいたいです。
助手H
あとは、「家具をこういう風に選んで欲しい」というようなメッセージなどはありますか?
若杉さん
CONDE HOUSE以外にも、いろいろなお店で見てほしいなという気持ちがあります。本来であればCONDE HOUSEだけ見て買ってくれるのがありがたいですけども、でもいろいろな店で見てもらうことで更に、CONDE HOUSEの良さがわかっていただけると思うんです。
南さん
日本製というものに裏付けされた、長く愛されるCONDE HOUSEの機能美を是非、体感していただければと思います。

——————– 取材後記 ——————–

取材の話題にも出てくる本のなかに「心の忘れ物は自然のなかに隠れている」という長原さんの言葉が出てくるのだけど、その言葉がずっと気になっている。
「旭川」という土地の持つ自然と、長原さんのスピリット。
そのふたつが育んできたCONDE HOUSEというブランドは、きっと現代人に「心の忘れ物」を届けるための家具を作っているんだ、と長原さんの言葉から勝手にそう考えたりもしている。特にロングセラーとなっている椅子やソファーは、そんな安心感を使い手に与えるような日本人のDNAに訴えかけてくる懐かしさを感じた。