SUMIBITO

突然の別れと、愛着。

カテゴリ : 住む人日記 2018.03.11

それは突然のことでした。
新千歳空港の搭乗口で鳴ったケータイをとると、
いつもと違う声色の知人が、振り絞るように、
可愛がってくれていた料理家さんの訃報を私に伝えたのでした。

僅かな前触れすらもない、あまりに突然のできごとに、全ての音が消えたようでした。
その方と私の出会いは、数えてしまえば、ほんの数年のことでした。
料理家なのに、写真家と言えるほど素晴らしい写真を撮り、文筆家と言って差し支えないほど明朗な文章を書き、驚くほど建築とインテイリアに明るく、そして何より魅力的な人柄の大先輩(といってもまだ若くいらした)でした。

初めてお会いした日、取材終わりの雑談で、生意気にも務めている会社を半年足らずで辞めて写真家としてフリーで生きていきたいと言い放った私に、箱いっぱいの未使用フィルムを持ってきて、「これあげるから、いい写真たくさん撮ってね」と背中を押してくれたのでした。
本当は少し不安だった私が、今こうして頑張れている理由の一つには、そんなことが、あったのでした。
それ以来、食事にも連れて行ってくださったり、写真を褒めてくださったり、住む人についても相談をしたり、いつか一緒に仕事したいと願っていたものの、叶わず、このような別れを迎えてしまいました。そして私は、それを受け入れられずにいました。

今日は、その方の住まいで形見分けの会でした。
溢れるほどの本に器に調理器具、そして家具が所狭しと並んでいました。そこには、私が撮ったその方の住まいの写真が飾られていました。
本当に気に入ってくださっていたことに、心から感謝しつつ、飾られた写真で私が写した椅子を、形見としていただいたのでした。
特別なものだと聞いていたので、私で良いのか悩みつつ、これもきっとご縁だと思うことにして。

あの突然から、もう一月以上が経ちました。
ずっと受け入れられずにいた私に、こうした形で、前を向きなさい、もっと頑張りなさいと、
語りかけてくれたようでした。

物にも人にも愛着を持っている人は、たくさんの物と人にも愛されて、豊かな人生を送っているのだと、今日改めて思ったのでした。

愛着こそ、生きた証。
そう私も胸に刻んで、生きようと思います。

 

 

住む人編集部