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小さなブランドだから、ディテールを追求する

カテゴリ : モノづくり 2016.07.18

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INTRO
着ている時の心地よさ、シンプルなデザインでコアなファン
を持っている小さなアパレルブランド「ナルナネア」。洋服の
デザインをしている田中さん。インテリア・ディスプレイで
洋服を魅せる大西さん。二人の絶妙なコラボレーションも
「ナルナネア」の大きな魅力。

鎌倉の海沿いにあるアトリエでの展示会の日、田中さんと大西
さんに、洋服のデザインや見せ方のことなど。いろいろと
お話しをうかがってきました。

インタビュー&テキスト
白鳥 ゆり子(技拓)
助手H

写真
蒲田 星人(HOTSYSTEMS)

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左:田中さん     中:白鳥   右:大西さん

白鳥:
大西さんが技拓の家のセカンドオーナーになってから、私たちのお付き合いが始まりましたよね。
大西さん:
鎌倉にある実家の傍にも技拓さんの家があり、ずーっと素敵だなぁって思ってたんですよね。
20代後半くらいからは東京に住んでいたんですが、2年半前に鎌倉に戻ってきました。東京では一軒家に住んでいて。
助手H:
東京は何年くらい住んでいたんですか?
大西さん:
何年かしら~。え~っと。。数えきれない。
田中さん:
70年くらい?

一同:(笑)

大西さん:
それで、鎌倉に戻ってくるときにも一軒家に住みたいとは思っていたのですが、一から土地を探して家を建てるという余裕はなく・・・。
中古の一軒家を探していたら、運よく技拓さんの家とめぐり逢ったんです。
それが築20年の技拓さんの家でした。
白鳥:
大激変しましたよね(笑)
大西さん:
そうですね。最初はかなり汚れてて、壁に穴が開いてたりとかもしてたんです(笑)技拓の土井さんも「よくここに決めましたね」なんて言ってたりして(笑)
田中さん:
そんなに汚かったの?全然そんな風に見えなかった(笑)
大西さん:
そう。最初物件を見た時は正直ひいたけど(笑)でも間取りとか、吹き抜けのつくりを見て、綺麗にしたら、すごいいいだろうなぁって思ってね。で、直感で決めて。
田中さん:
すごい、それ直感で決めるの。
大西さん:
それが、技拓さんとの始まりで。リフォームは技拓さんにやってもらいました。
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助手H:
ナルナネアの服は技拓の家の雰囲気にすごく合ってますよね。
白鳥:
たぶん技拓のお客さんの雰囲気に合うんじゃないかと思って、技拓のイベントで出展してもらったんですよね。「売れなかったらごめんなさい」って言ってたんだけれども、結構売れた(笑)感覚がやっぱりフィットするんだなぁって思いました。
大西さん:
お手入れもしていただいて、大事にしてもらえれば、10年でも20年でも着られる服なんです。素材をいいモノを使うというコンセプトが技拓さんと似てるんですね。そうするとやっぱり技拓さんの家に住んでいる方たちは、家だけじゃなくて、食べるものとか、着てるものとかが自然とリンクしてくるから、きっと合っているんだろうなぁって感じました。
田中さん:
その人が住んでる家と着ている服って、だいたい似ていることが多いですよね。
「あ~やっぱり、こういう家に住んでいる人の場合は、こういうキラキラな服着るんだ」とか(笑)
白鳥:
技拓にはピンヒールのお客さんとかあんまりいない(笑)
田中さん:
来ても、板と板の間にヒールが挟まっちゃいますよね(笑)
助手H:
ナルナネアも技拓も、単にシンプルではない、絶妙なものを感じます。
田中さん:
なんかね、匂いが同じだよね。
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助手H:
ところで田中さんと大西さんの関係はいつから始まったんですか?
田中さん:
某大手アパレルメーカーで働いてる時の同僚です。
今となっては普通ですけれども、そのメーカーは30年前からライフスタイルをすごく意識した洋服づくりをしていました。アパレルなのに、食器だとかも販売していて、「こういう食器を使う人たちはどんな洋服を着るのかな」というようなライフスタイル寄りの考え方で、その当時から洋服のデザインをしていたようなメーカーでした。「トレンドはこれ」とかいう考え方をしていなかった。ボディコンシャスとかデザイナーズブランドとか、まだまだ残っていたなかで、シンプルなことを追求していたんです。
白鳥:
何か感じるものがあったから、そのメーカーで働きたいと思ったんですよね、きっと。
大西さん:
自由が丘にある、そのメーカーのお店でたまに買い物をしていて、「なんかここで働きたいなぁ」と思ったのが始まりでした
田中さん:
そのアパレルメーカーは25年くらい前にカフェもやっていました。そこで大西さんと知り合って。環境音楽が流れるようなオフィスで仕事をしていながらも、夜は二人でお酒を飲みながら、ロックとか聴いてたよね(笑)瞑想しに行ったりはしていなかったよね(笑)
大西さん:
そんなにストイックではなく。
田中さん:
悪も知ってたよね(笑)
助手H:
悪って(笑)ロック好きなんですか?
田中さん:
好きでしたね。
助手H:
どういうロックですか?
田中さん:
イギリスのロックでしたね。
助手H:
ロック聴きながらもファッションはロックに行かなかったんですね。
大西さん:
そうですねぇ。夜になるとロックだったけど、田中さんと共通してたのは、
「海が好き」というところだったよね。
田中さん:
基本は海が好きでしたね。
大西さん:
「トレンドを追う」というのはなく、東京にいても「暮らし」の方に
アンテナを張っていたよね。
助手H:
田中さんは海の傍に住んでいたんですか?
田中さん:
育ったのは東京で、両親の実家が海の傍だったから、結構海には行っていたんです。このブランドを起ち上げるときも、「都会で着れる服ではあってほしいけれど、海辺で着ていても違和感のない服」というのは崩したくないと思っていました。
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白鳥:
独立したきっかけって何だったんですか?
田中さん:
会社がどんどん大きくなっていって、「いっぱいモノを作って売れるように」というのは会社としては当たり前なんですが、「売上」という言葉が嫌になってきて。自分が作りたいモノと、売っていかなくてはならないモノとのギャップを徐々に感じ始めたことがきっかけです。
大西さん:
まだね、在職中から「こういう気持ちのいい服を作りたいよね」という話はよくしてたよね。
助手H:
その会社では、田中さんはデザイナーで、大西さんは?
大西さん:
入社した時は、インテリアの方で、小物の企画をしたり、雑貨のバイイングをしたりとか。いろんなブランドを作ってはなくなったりとか。
田中さん:
フッ(笑)
大西さん:
いろんなお店起ち上げて、海外にもお店を起ち上げたり。もう大変(笑)バブルもあったし。最終的には店舗設計で、お店の内装をやってました。
白鳥:
ライフスタイルのことをトータルで開発する会社だったから、二人は出逢ったということですね。
大西さん:
二人が服のデザイナーだったら、意見がぶつかったと思うけど、私は田中さんのつくる洋服のファンだったから。
田中さん:
歩く広告塔(笑)。
大西さん:
田中さんのつくる洋服をどう見せるのかというのが私の仕事です。
田中さん:
ディスプレイは完全に大西さんにおまかせしてます。気が付くと、
「あっいいんじゃないですかぁ~」っていうディスプレイになっている(笑)。
衝突しないで役割分担ができてます。
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助手H:
ナルナネアのデザインで大切にしていることは?
大西さん:
やっぱり、海辺でも街でも着れる緊張感がある服であることですね。
白鳥さん:
私もめちゃくちゃ「海派」ではないので、ナルナネアさんの洋服は、やっぱりこのまま都会を歩いていても違和感がないような洋服である点が好きです。あと着心地感がたまらない。しかも家で洗濯ができる。
大西さん:
技拓さんのイベントはナルナネアの洋服を見せるのに、すごくハマったイベントでしたよね。
白鳥さん:
美味しい料理とお酒もあって、ユルユルで(笑)
田中さん:
セレクトショップで洋服を選ぶのもいいけれど、リラックスしながら、ああやって洋服を選ぶのもすごくいいですよね。
大西さん:
洋服の買い方もみんなすごく変化してきていて。セレクトショップで選ぶのもいいけれど、それだと「ネットで」という買い方もあるじゃないですか。まったくそうじゃなくって、リラックスしながらまずは洋服に触ってもらって、というのが技拓さんのイベントではよかったなぁって。
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白鳥:
デザインするときに、毎年テーマとかあるんですか?
田中さん:
テーマはまったくないです(笑)今年は「ロサンゼルスの」とかない(笑)。
大西さん:
そういうテーマはないですね。大きな意味でのデザインのテーマはあると思います。パッと見はベーシックに見えるんだけれども、デザインへのちょっとした配慮、ディティールに気を使っています。
白鳥:
前のシーズンのデザインと、大きく変わったりすることもないですよね。
大西さん:
そうですね。ちょっとずつデザイン変えたりしていますが。
ナルナネアは、実際に触って着てもらって、話をして気に入ってもらった時に買ってもらうようなプロセスが重要な洋服だと思います。逆に言うと、セレクトショップなどに並べられると埋もれてしまうような洋服だから、良さが伝わらない。
田中さん:
雑誌映えさせるようにデザインされた洋服でもないし。人が着て初めて完成するようなデザインの洋服だから。
白鳥:
それは技拓の家も同じようなかんじなんです。すごくシンプルで、心地のいい暮らしをしていると、雑誌のなかでは埋もれていってしまう(笑)ナルナネアも技拓もそういう部分で共通しているので、訴求していくのにすごく大変なブランドですよね(笑)
「シンプル」っていうのは、着てみたり、住んでみたりしないと、なかなか良さがわからない。
田中さん:
「人が一緒になってようやく完成する」っていうところは技拓さんとナルナネアのデザインの共通点でもありますね。
洋服を見てくれた方が「すごいシンプルね」と言うのですが、「ちょっと着てみてください」っていうと、ハンガーにかかってペタッとなっているよりも、自分が着ると「こうなるのね」っていうことが多いんです。
白鳥:
素材もいい。デザインもいい。っていうのはわかるんだけど、着てみると、その「フィット感」がたまらなく心地いい。そのデザインのシンプルさがわかるかんじ。
大西さん:
ナルナネアであれば、デザインのちょっとしたディティールへの配慮が、
着てみると「あっ、ここのデザインがすごく効いてるのね」っていう風にわかる。
助手H:
ちょっとずつは変えるけれど、毎年だいたい同じデザインなんですね。
白鳥:
色は変えるんですか?
田中さん:
差し色は変えるけれど、だいたいベースは同じ色です。
大西さん:
トレンドではなくて、二人で話して「今年はなんかこういう気分だね」っていうことで色は決めます。いろんな色がカラフルに入ってくるっていうことはないです。好きな色が白とかグレーだから、だいたいそんなかんじになるけど(笑)
白鳥:
去年ってこういう赤ってありましたっけ?
田中さん:
いや、赤を入れたのははじめてかな。
大西さん:
これイタリアの糸でミックスされた赤だから、発色が綺麗な赤で。
田中さん:
モノトーンが好きな方も「この赤は気になる」って言ってました。
助手H:
ナルナネアの洋服は、どういうプロセスを経てデザインされていくのでしょうか?
どのポイントからイメージをしていきますか?
「今年はこういう気分だね」っていうところからやっぱり始まるのでしょうか。
田中さん:
何から始まるんだろ。記憶にない(笑)
助手H:
記憶にない(笑)
田中さん:
気が付いたら出来上がってるかんじで(笑)
助手H:
(笑)カタチからは始まらないんですか?
大西さん:
素材からが多いかなぁ。
田中さん:
でも、カタチも素材も同時かなぁ。自分が着ている姿とかをイメージすると、「ああ、あの素材にはこのカタチかなぁ」とか「ああ、あのカタチにはこの素材かなぁ」とか。
白鳥:
やっぱり田中さんが着たいものを作る。
田中さん:
そうですね。「これ売れそう」とかは絶対に考えない(笑)
某メーカーにいるときは、「売れそう」ということを考えながら作りました。
「売れそう」なものができた時はやっぱり売れたんですが(笑)
でも、着たいものとそういうものとは違ってました。
白鳥:
でもそれによって共感する人だけが集まって来やすいですよね。
田中さん:
そうですね。不特定多数はもう望まないです。100人いたら、ひとりの人が「すごくいい」と言ってくれれば、それでいいです。
大西さん:
マーケティングゼロです(笑)本当にゼロかって言うと、そうではないですけどね。会社にいた時はやってたわけだから。「好きなものが作りたい」っていうアーティストではないですし。
白鳥:
マーケティングに偏りすぎることは、小さなブランドにとってあんまり意味がないですよね。
大西さん:
偏ると、みんな同じデザインになっていっちゃうから。それだと小さなブランドであることの意味はないし。マーケティングだけで作っていっちゃうモノって、オーラがなくなっちゃいますからね。
田中さん:
マーケティングリサーチとしては、一応「若い子たち、こういうの着るんだぁ、こういうの流行ってるんだぁ」っていうのは見ますけどね(笑)。
大西さん:
「人が一緒になってようやく完成する」という点で、ナルナネアと技拓さんは同じっていう話をさっきしましたが、技拓さんの家はハコを見せているわけではなくて、住む人によっての暮らし方、置いてある家具などで表情が変わりますよね。
白鳥:
人が住み始めることでプロダクトとして「息吹」が入るんだと思います。
お客様に家の写真を撮らせてもらう時には「片づけないでください」って言うようにしてます(笑)綺麗すぎると不自然なので。「暮らし」って綺麗すぎると見えてこないから、やっぱり自然なかんじで絵になる家が素敵だと思います。
大西さん:
イタリアの家具がピシーっと入っていて、クッションの皺がキチッと綺麗になっている感覚とは少し違うかんじですよね。きっと(笑)
技拓さんみたいに、やっぱり変わらない何かがあるブランドって魅力を感じます。
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助手H:
具体的に洋服を見せていただきながら、デザインでアピールしたいとか、感じてもらいたいポイントを教えてください。
田中さん:
考えたことないなぁ・・・(笑)
ま、例えばなんですけどもこれでいいますと
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通常、こういうデザインって、編地は縦なんですけども、襟も繋がった状態で編地を横にしています。
そして、ジャガードの柄を入れたかったのですが、全体には入れたくない。
「そういえば、袖口だけのジャガードってあんまりないよな」ということで、袖口にワンポイント入れたんです。
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これはパッと見、ワンピースなんですが、
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ニットの裾って通常ぐるりとリブがあるじゃないですか。
でもこれは脇だけリブにしているっていう。パッと見はわからないんだけれども。
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助手H:
パッと見はわからないかもしれないけれど、でもそういうデザインへの細かい配慮で、そのプロダクトが洗練されているかどうかというのが、決まるかんじだってことですよね。
田中さん:
そうなんですよ。あとわかりやすいのがこれ。
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パット見は、普通のボーダーのTシャツなんですけれども、広げると脇にラインが入っているんですね。「ラインが入ってるんだなぁ」と普通に通り過ぎるところですけども、この場所にニットでラインが入っているというのは、手作業なんですが、とても技術的に大変なことなんです。パッと見は普通のニットのボーダーなんだけど、実はひと手間もふた手間もかかって作られている。それがナルナネアのデザインの特徴かもしれません。
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助手H:
やっぱり今聞いたようなデザインへの配慮が、プロダクトをシャープに感じさせるような気がするんです。リラックスしてるなかにも少しの緊張感があるというか。だから、海辺を歩くシーンでも東京のような街のなかでもナルナネアの洋服は違和感なく溶け込むのでしょうね。
大西さん:
そうですね。ただ、シンプルに簡単に作っているわけじゃないから。
田中さん:
人の手で丁寧に作る部分があるから、量産では決してできません。
お客様に対してはこうして、デザインについて語ることってほとんどないけど(笑)ずっと着ているうちに「なんか他の洋服と作りが違うな」って気づいてくださるお客様も結構います。
白鳥:
「ウチのデザインは、あーなんです、こーなんです」ってあんまり迫られちゃうとお腹いっぱいになっちゃうしね(笑)。

 

——————– 取材後記 ——————–

「シンプルなデザイン」と言葉で言うのは簡単だけれど、そのデザインを10年20年と永く使い込んでもらうには、プロダクトが完成した時の「洗練された空気感」というのが重要なんだということがわかった。そのための、デザインへの配慮やディティールの積み重ねを
サラっと語る田中さんと大西さん。素敵なお二人でした。
やっぱりデザインには、その人が表現されるんだなって再認識したのでした。

 
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