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「大人になる」こと

カテゴリ : 住む人日記 2019.03.20

くしゃみで落ちる眼鏡を押さえていると、袴姿の大学生が目の前を通り過ぎる。あぁ卒業式の季節、つまりは就職の春でもある。私にもそんな瞬間があったのだと思い出す。リクルートスーツから本物のスーツに変わると、世間の目はそれまでとは打って変わり、大人へのそれに変わる。大人への期待も不安も、一切合切を背負って春を合図に歩き出すのだ。でも1年と経たないうちに、どこに向かって、何故、歩いているのか。いったい何が大人なのか。よく分からなくなるだろう。
私もしょっちょう、疑問が浮かぶ。

でも、大人になると自分で稼いだお金で、好きなものを食べることができる。好きなお皿を買うことができる。好きな家に住むことができる。絵を買ったり、写真を買ったりもできる。私はそれが、「大人になる」ということだと思う。親や友達の賛同もいらない。自立をして、己の目と頭で選んだ暮らしは社会のなかにあって唯一、誰に干渉されることも、怒られることも、否定されることもない。

仕事で辛いことがあっても、大切な恋人と別れても、日々は続いていく。
愚痴を聞いてくれる友達や励ましてくれる家族も、永遠にいるわけではないのだ。
いつまでも誰かに頼ってばかりはいられない。
だから大人は、自分で選んだ暮らしを営み、それによって自分自身を支える必要がある。そうやって手にしたものは、雑誌に載っている服のように古くはならないし、SNSで話題のお店のように、ブームが去ったからと閉店したりはしないのだから。

自分にとって普遍的な暮らしを手にする。それは大人になってはじめて認められる自由なのだ。そんなことを、痒い目をこすりながら思った、春の日。気温は20度だそう。
みなさんにも、いい春が訪れますように。

住む人編集部 K.H