SUMIBITO

知らない人の、母の味

カテゴリ : 住む人日記 2016.11.25

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秋の終わりと冬の訪れに心踊った翌日の小春日和に狼狽した11月が終わる。昨日は、11月としては54年振りの初雪。都会の空を舞う重たい雪は儚げ、翌朝には幻の如く消えていました。
凍える帰り掛け、定食屋でエビフライに添えられた味噌汁の温かさと優しい出汁の味に触れたことを思い出して、しんみりとした気持ちに。

なんてことのない味噌汁の具は、油揚とモヤシ、ワカメ。おそらく出汁は鰹という定番。でもきっと出来合いのそれではなく、ちゃんと出汁から取られているらしく、穏やかで丸みを帯びた味がする。それはレシピというより「人の手」の味。見知らぬ人の作る味噌汁に思い出す、母の顔。
どんな人が作っているのだろうと厨房を覗くと、背中をほんの少し丸めたおばさんがいる。隣には白髪の夫らしき人。

ふたりは、会話をすることなく、静かな表情で手を動かしている。
「はぁ、あったかい」と呟きながら、例の味噌汁をもう一口。やっぱり穏やかに丸く、優しい。
見知らぬふたりに湧き上がる、得たいの知れない親近感。

「美味しい」には、ふたつの種類がある。
手間暇をかけたことによる味と、愛や優しさによる味だ。味覚のさらに一つ向こう側、記憶と気配に訴えかけてくる後者は、買えない味かもしれない。撮影続きだった今週も今日で終い。
今夜は久々に、母の手料理を食べに帰ろうと思う。

帰る場所、待っている人がいることは、幸せだ。
もうすぐ、冬本番。

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2016.11.25
『住む人』編集部:原田 教正