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モノも育てるように

カテゴリ : お山生活 2017.03.28

人生に寄り添うように、長く使えるもの。
なんだか大事にしたくなってしまうもの。

歳を重ねてくると、そういうモノたちに価値を見出すようになる。
でも、長く使えるようにするためには、
もちろん自分の努力も大切だということを、忘れてはいけない。
調理器具でも日用品でも、もちろん家でも。
まず質のいいものを手に入れただけでは、長持ちしてくれるわけではないということ。
意外と見落としがちで、でも当たり前のこと。

以前掲載した南部鉄瓶同様、1年に1度は必ずお手入れをしている土鍋は、
もうすぐ7年になる。

ご飯を炊く際に、炊飯器を使わなくなって15年近く。
やっと気に入った土鍋に出会えてからは、とにかく愛情たっぷり
育てるように大切にしてきた。
土鍋は、使えば使うほど調理の具合もよく、丈夫になるのだとか。
なので、日常で気を付けることは、時々お手入れをすること、
火にかける際の、ちょっとした注意点を守ること。
あとは、洗剤を使って洗わない。
よく乾かすなど・・・
土鍋が何よりも嫌うのは、温度差。
それが原因で、大きなひびが入ることもある。
でも、ひびにも良いひびと悪いひびがあるが、
長く使えばひびは入るものだし、多少の水漏れも出てくるもの。

ひびの補強のためにも、私は年に一度おかゆを炊いて、木じゃくで米つぶをつぶしながら、
おかゆがのり状になるまで煮る。
1日か2日、おかゆを入れたままにして、
のりを鍋にじっくりと浸透させる。
釉薬のカケが生じたら、かけた部分にご飯粒を擦り込んで、
一晩乾かす。
カビが生えたり、臭いがしたら、お茶を煮だたせる。
土鍋を購入した際、教わったお手入れ方法は、
今でもきちんと守っている。
このちょっとしたひと手間が、モノのもちに差が出る。

いいものをまず選ぶ。
そして、このようなひと手間をかけることで、じっくりと育てていく。
そのうちにそのモノに愛着がわく。
ますます丁寧な扱いをするようになって、
いつしかアンティークな味わいを醸し出す。
そんなことをイメージしながら、せっせと育てているわけ。

ちょっと余談になってしまうけれど、
育てているモノを、あえて見せて飾ることで、
美しいアンビエントを醸し出すことは、よくある。
アンティーク小物などが、それに当たる。
ふと、深澤さんの言葉を思い出した。
「モノは雰囲気を醸し出す一分子である。」ということ。
ヨーロッパでカタログを作る際、もっとも重要視していることは、
「商品」を売らずに、そのものが醸し出す雰囲気をカタログにすること。
空間のハーモニーが重要であって、商品そのものの良さだけでは、
そのものは「いいね」で終わってしまうということ。
日本の製品のカタログは、性能がどれだけいいか、
その商品の良さをふんだんに盛り込んだカタログになりがちだが、
それとは真逆で、全体調和の中のバランスや、
空間を切り取った美しさを大切にしているわけです。
モノづくりの視点の違いと、デザインに対する歴史の違いでしょうか。
この考えは、個体から空気の輪郭を捉えるのではなく、環境から穴を
割り出す考え方ということ。
とても素敵なことです。
技拓もそういう考え方ですので、とてもお話がわかりやすかった。

今回の土鍋を育てる話しと、あえてつなげるならば、
質のいいモノを大事に育てる一方で、モノが置かれるアンビエントを
考え、そこに大切に育てたモノを落とし込んでいく。
そんな考え方で、我が家を自分なりの素敵な空間に仕上げていく。
きっとその思考が、暮らしの上級者には常にあるのだろう。