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始末のよい手ぬぐい(前編)

カテゴリ : 住む人日記 2017.01.24

東京は日本橋に、戸田屋商店という創業140年を迎える梨園染の老舗があります。注染ならではの淡く滲んだ色合いや、ユニークな色柄の浴衣や手ぬぐいを作り続けてきました。たくさんの職人たちによって受け継がれてた技と文化、そして常に暮らしと共に歩んできた日用品としての手ぬぐいの姿を追いました。
手ぬぐいと聞いてみなさんは、どんなものを思い浮かべますか?可愛らしい色柄のそれは、日用品というよりは、お洒落な雑貨のようなものかもしれません。けれど染工場と戸田屋商店さんで知ったのは、その可愛らしさやデザインを存分に楽しみながらも、無駄なく最後まで使い倒す、日用品としての手ぬぐいの姿でした。

〜職人が紡ぐ日用品〜

新小岩の駅から車で細い路地を抜けた先に、戸田屋商店の製品を作る染工場がある。エアプレッサーの音と張り詰めた空気が漂い、染料の独特な匂いと水蒸気に包まれた中で黙々と作業をする職人たち。渋紙にデザインを掘る、型紙に紗を張る、糊を引く、染める、洗う、それぞれの工程は分業制で、鍛え上げられた熟練の職人たちの手作業によって進められていく。よく見ると、たくさんの若い職人が作業に打ち込んでいた。そうして丹念に作られた一枚には、季節の情景や、昔ながらの絵柄、目を惹く現代的なイラストで、私たちを楽しませてくれるのだ。

注染の魅力の一つである複雑なぼかしやグラデーション、色の使い分けは積み重ねられた職人の知恵と経験、それに裏付けされた感性が頼りだ。たった一枚の美しい布は、息を呑むほどに厳しく繊細な作業の繰り返しによって生まれるのだ。近年、その独特の風合いと色合いで再び注目を集めている注染は、上から注いだ染料をエアプレッサーで瞬時に吸い込むことで一度に大量の染色を可能にする技法として、その発祥は明治時代にまで遡る。


決して豊かではなかった時代、人々は手ぬぐいのユニークで粋な絵柄を楽しみつつ、タオルのように食器や体を拭うものとして使い、汚れが目立つ頃には雑巾に、そのあとは割いてはたきとして使ってきた。その他にも大切なものを包んだり、覆ったり、時にはファッションの一部として用いたりと、その用途は大正時代に使い方の番付表が作られたほど。
あまりに日用的な物として割いてまで使うから、当時流行った絵柄がそれほど多くが現存していないのだそう。そんな手ぬぐいの使い方と、用の美、始末の良さは知ること、そして今もう一度使い倒してみることで、忘れかけていたものに、ふと気がつくかも知れない。

後編に続く